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中村陽子のコラム

2011年1月16日

こうじ菌は日本人のたからもの(田から来るもの)

 寒仕込みということで、2月のはじめ6日間ほどお店の味噌を仕込みに、雪降る大田原まで行ってきました。原料は、メダカのがっこうの花まる農家、水口博さんが農薬・化学肥料を使わないで栽培したギンレイという大豆、自然耕米、そして伊豆大島の阪本さんの「しほ海の馨」という私たちが最も信頼するものをそろえました。前半の3日がお店の味噌250kg、後半の3日がメダカのがっこう会員の味噌造り教室で250kg、合わせて500kgの味噌を仕込みました。
 ここでこうじ菌の力を体験しました。70kgの米を1日冷やして蒸してこうじ付けをするこうじ作りを2回経験し、180kgのこうじを作りましたが、毎日こうじを手でかき混ぜ、味を見たり、あまったこうじで作った甘酒をいただいたりして6日過ごして家に帰ってみたら、首のアトピーが良くなっていたのです。それに泊まりが続くと普通は便秘がちになるはずなのに、この6日間はおなかの調子がずっと良かったのです。日本人の身体に合う良い菌を、身体いっぱいに入れておくことが、とても良いことなのだと思いました。
こうじ菌は、「国菌」とも書くそうです。これなしでは、酒も醤油も味噌も造れません。まさに和食を根底から支える日本の国の菌なのだと認識を新たにしました。 
こうじは田からもってくる
 これは、1月に訪問した酒蔵、寺田本家さんで見せてもらったこうじの話です。メダカのがっこうの会員農家の田んぼは、農薬や化学肥料を使わないので、秋の収穫時期になると、稲穂に時たま緑がかった黒い玉がつきます。これをこうじ花と呼ぶことは知っていたのですが、まさかこれがお酒や醤油や味噌をつくるこうじ菌と同じものだとは思っていませんでした。寺田本家さんのこうじ室で、「こうじはどこから持ってくるかご存知ですか?」と質問され、薬局から買ってくるとも答えられず黙っていたら、「こうじは田からもってくるのです。田から来たもの、で たからもの(宝物)なのです。」と伺いビックリしました。こんな酒造元も全国でここ1つだろうと思いますが、本当に稲穂についているこうじ花を培養して、蒸したお米に振りかけてこうじを作っていました。
即醸作りの対極
 即醸造りとは、戦後物資が不足したときに、間に合わせるために出てきた技術ですが、何でも早く作ることが経済効率優先の社会に合致するので、醤油もお酒も自然醸造は姿を消してしまいました。即醸作りだと10日から2週間でお酒が出来ます。ところが寺田本家では、何も省かず酒母を育てるのに40日、酒母と蒸し米と水をあわせて酒になるまでに40日、あわせて80日かけてお酒を造っています。そして出来たお酒は色もあり雑味や酸味もあるので、透明でスッキリした飲み口がいいとされている現代のお酒の基準には当てはまらないのですが、これが実は大事なのではないかと反対に思わせるお酒でもあります。メダカのがっこうで醤油造りをはじめたのは、材料から吟味した自然醸造の醤油が手に入らないからですが、お酒に関しては、寺田本家さんがいるので安心です。
人間世界の発酵菌になる
 「発酵すれば腐らない」酒蔵と同じくらい素晴らしい発酵槽は人間の腸の中だそうです。病気の原因である活性酸素は、発酵槽の中では普通の酸素に戻るそうです。これは全部寺田本家の寺田啓佐社長の受け売りですが、最近お会いして前よりいっそう多様な人たちに囲まれながら謙虚になられている様子に気がつくことがありました。どうも彼は人間世界の発酵菌になろうとしているのではないかという疑惑です。口を開けば今までの懺悔と周りの変人とも言える多様なたちを賞賛するのです。
 私も人間世界の発酵菌を目指したい気持ちはありますが、人に不足を思ったり、自分の働きを自慢したかったりするうちは、道遠しですね。
こうじ菌は日本人のたからもの(田から来るもの)と知りました。