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中村陽子のコラム

2007年4月1日

どんな制度でも、それだけでは解決できない

 メダカのがっこうは、既存の体制を批判したり、反対すると疲れるだけで時間が勿体ないので、肩書きという意識を持たない楽しい仲間と、いいと思うことをドンドンやっていくことにしています。ですから、やる気と覚悟さえあれば、考えたことを実行に移すだけの自由な社会であることが、とても重要です。ところが、時折この自由が邪魔されることがあります。


早くも1年で崩れ始めた新潟県BLコシヒカリ制度

 一昨年、新潟県がBLコシヒカリという種以外でつくったお米は、新潟コシヒカリとは認めないという方針を出しました。理由の1つは、たとえば魚沼産コシヒカリが生産量の何倍も市場に出ているといった問題の解決策として、他県のお米を混米すれば遺伝子検査ですぐ分かるように明白な1品種だけを栽培して、新潟コシヒカリのブランドを守るためです。このほかに、イモチ病に強い種なので農薬の空中散布を減らせるという理由もありました。
 品種改良は昔から行われてきたので、悪いことではありませんが、気になる条件が2つありました。1つは、この種は毎年更新しなければならない(買わなければならない)、つまり自家採取してはいけないということです。初めF1種(1代限りの交配種)ではないか、遺伝子組み換えではないかと疑いましたが、従来の掛け合わせで作ったもので、自家採取も可能なことが分かりました。2つ目は、これ以外の種でつくったものは、在来種でも新潟コシヒカリと認めず、農協の買い上げ価格も低いということです。
 これでは事実上、農家はこの方針に従わざるを得ません。私たちは、BLコシヒカリに魅力を感じなかったので、買い取れると分かっている量だけは、従来のコシヒカリを作っていただくことにしました。BLコシヒカリを選ばなかった理由は、私たちの農法は、イモチ病にはほとんどならないこと、生きもの調査をして農家やその田んぼの生きものの顔まで知っているため、新潟コシヒカリのブランドが不要であること、自家採取をしてはいけないという種を使いたくないこと、食べたい品種を作る自由を守りたいこと、自然界で1品種だけつくることは毎年変わる気象を考えると危険であり、生物多様性を大切にしているメダカのがっこうの方針に合わないこと、などです。
 しかし、たったこれだけのことを実行することでも、容易なことではありませんでした。
農家の応援になっていない有機認証制度
 有機認証制度も、有機栽培無農薬で作物を作ろうとしている農家を応援することになっていない制度です。最大の問題は、お金がかかることです。一つの田んぼ、畑ごとに検査代がかかり、検査員の交通費、宿泊費などもあるので大変です。それが作物の価格を上げてしまうのです。また、農地が細かく分散している日本の事情では、100mの緩衝地帯をとると、周りの多くの農家を巻き込んでしまい、実際にはとてもハードルが高く、有機栽培無農薬でも、申請できない農家がたくさんあります。
私たちに、制度は必要ではない
ブランドや認証制度に頼らなければならないわけは、これでしか消費者にアピールする方法がないからです。たとえば、農家と直接つながっていて、顔が見える信頼関係が確立されている場合には、ブランドも有機認証も必要ありません。これが必要になるのは、流通を通して市場で出て行く場合です。消費者の側も、スーパーに並んでいる野菜の中から安心な食を選ぼうとすると、これ以外の手がかりがありません。
新潟コシヒカリのブランドを守るための取り組みは、いのちの多様性とは相反するものになってしまいました。今年従来のコシヒカリがほしいという要望が多く出てきたのですが、昨年BLコシヒカリ一色にしてしまったので、今年の種が足りません。佐渡ではメダカのがっこう関係の2人しかこの種を持っていません。この例に限らずブランドというものは、命の視点とは無関係のようです。
安心安全を証明するために、生物調査を取り入れる動きも出てきていますが、これも認証制度のように、生物指標や数で農家を評価するものになってほしくないですね。制度は効率を求め、命を犠牲にする傾向がありますから。私たちは、消費者と農家がいっしょに田んぼを覗き、生きものたちに聴く姿勢を持って、生きものの存在を活かした農業を育てていこうと思っています。
 皆さん、大切なお米だけでも、メダカのがっこうが一緒に生きもの調査をしている農家の田んぼを確保して、草取りや、生きものを覗きに来てみませんか?これは自らが命の視点と自然観を育てることで、制度と戦わずにできる静かな無血革命ですよ。