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中村陽子のコラム

2002年9月3日

みんなが生きていける方法がある

 毎日たくさんの種が絶滅しているそうです。どんな状況で最後の1匹が死んでいくのでしょう、全く無言で。彼らの声を拾い上げなくては、彼らの状況をつかまなくては、と思います。佐渡では、日本で最後の1匹となったトキの「キン」がまだ健在ですが、その種の最後の1匹には、生き残ろうとする強い意識を感じ、その健気な姿に感動します。
 今年メダカのがっこうでは、田んぼの生きもの調査を始めました。生きものたちの声を聴くためです。絶滅危惧種の半数以上が、田んぼや水辺の生きものだと聞いています。私たちは、直接生きものたちとお話は出来ませんから、まず数を数えることから始めました。


 冬に水を張った自然耕の田んぼには、絶滅危惧種のニホンアカガエルがどこからかやって来て卵を産み繁殖しました。前からいたニホンアマガエルも、トウキョウダルマガエルも増えました。みんな生きる環境が整ったことを喜んでいるようです。「田んぼに水を張ってケロ」と言う彼らの声が聞こえてくるようです。
 現代農業の稲作では乾田化が一般的で、一年の内3ヶ月半しか田んぼに水を入れません。秋から春までの間、用水路は干上がり、パイプから水が出ません。冬の田んぼに水を張ることは、農家にとって本当に大変な努力なのです。でもやってみたら、生きものたちが喜び、農家も喜ぶ結果になりました。
 冬に水を張った田んぼのことを、冬期湛水田と呼びますが、この田んぼは、草が生えず、除草の手間が省け、その上、稲の生長がとてもいいのです。田んぼに入れたのは米糠とくず大豆だけ、近代農法のチッレv算からいって足りるはずがありません。
 これはどうもイトミミズの働きも関係しているらしいのです。米糠とくず大豆を入れて秋から水を張った田んぼでは、イトミミズが大発生し、これらの有機物を食べては糞としてお尻から吹き上げ、田んぼにトロトロ層を作り、稲が吸収できる栄養に短期間に変えているらしいのです。
 ミミズは古代エジプトでは、「豊穣の神」と崇められ、古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、「地球の腸」と呼び、中国の諺には、「ミミズが山を動かす」とあり、進化論で有名なダーウィンは、「ミミズが地球を耕した」と言いました。こんなに本質をつかんだ阜サがされていたなんて、太古から地球の生きものの声を聴いていた先人たちに感動です。
 冬期湛水田を喜ぶ生きものに、鳥たちもいます。1970年、農薬の使用量がピークに達した年、この時からガンや白鳥などの渡り鳥が激減しました。干潟の干拓、乾田化などによる水辺の減少は、さらに追い討ちをかけています。数というのは、生きものたちの最終的な声なのですね。
 冬期湛水も自然耕(不耕起栽培)も、農薬や化学肥料が要らなくなる農法です。やっと、人間にとっても、生きものたちにとっても良い方法が見つかりました。人間も捨てた者ではないな、という希望が湧いてきます。
 いろんな生きものたちの声を集め、地球の声をみんなで聴き取り、みんなが生きていける方法を考えましょう。
 メダカのがっこうでは、11月30日に、「田んぼの生きものたちに聴く国の未来」と題して、命の視点で考えるシンポジウムをします。このシンポジウムでは、生きものたちの生きる環境を守ってくれている農家を、みんなで支援するための政策提言をする計画です。(安田生命ホール12:30)
 彼らは、日本の自然と国民の安全な食糧を守っているのに、誰からも評価されず、経済的な補償もなく、国の支援もなく、個人の努力でこんな素晴らしいことを実行してくれているのです。このような国にとっての最重要項目を、有機栽培農家や、自然耕栽培農家だけに負担させて良いのでしょうか。
 今まで米そのものの経済価値しかお金になりませんでしたが、生きものたちの生きる環境など、今まで評価されなかったものを、広く経済の枠の中に入れて、もう一度組み立て直し、みんなが生きていくことのできるシステムを考えます。できるだけ具体的に、指標生物や田んぼが作り出している生きる環境の定量化を提案し、それに従った直接支払いなどの政策提言を国にしようと思っています。
 また、メダカのがっこうでは、国が動き出すのを待つことなく、私たち自身が、命に聴く姿勢を持って、生きものたちの生きる環境を守ってくれている田んぼを支援する運動を起こします。みんなが生きていけるシステムがある。私たちはそれを発見して実行する。人間がそこまで素晴らしいことを証明したいのです。