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中村陽子のコラム

2005年10月6日

カメムシが教えてくれたこと

● カメムシの害とは
カメムシの害にあったお米は、斑点米と呼ばれています。お米の形が少し欠けていて、そのふちがこげ茶色になっているお米が斑点米です。稲の穂が出てから登熟するまでの間に、カメムシに針を刺されてお米の中身を少し吸われてしまうと、こうなります。これだけなら、ご飯を食べていて、たまに茶色くなったお米を目にするだけで、全く無害である上、おいしいお米の味も変わりません。


● 斑点米は無害なのに、有害な農薬をまく
それに対して農家はどうしているかというと、カメムシを殺す農薬をまきます。特に、今年は東北から北関東にかけてカメムシ被害が多い年でした。被害が広がらないうちに、地域でラジコンヘリによる農薬散布をしました。斑点米は全く無害ですが、こちらの農薬は有害です。岩手県にいるメダカのがっこうの花まる農家・伊藤茂さんの近くでは、ミツバチが大量に死んだり、とても体の大きいゴイサギが口から血を出して死んだりしました。たまたま岩手では、生きものを愛する伊藤さんが発見し写真を撮りましたが、この状態は岩手だけの話ではないと思います。
● なぜ農薬をまくのか
 それはわずかでも斑点米が入っていると、せっかく丹精込めて育て無事収穫までこぎつけたお米の評価が1等米から2等米に落ちてしまい、農協のお米の買い上げ価格が下がってしまうからです。カメムシの害を、本当の被害にしてしまうのが、お米の等級制度です。斑点米が入った2等米は、色選機という茶色のお米をはじく機械にかけられ、きれいに取り除かれて、消費者に売られます。この色選の機械はとても高いので、一般の農家が買うのは大変です。そこでさらに農協などに手数料を払って色選機にかけてもらうことになります。
 再度、なぜ農薬をまくのかを考えると、そうしないと、消費者が買い求めるきれいなお米にならないからです。ではなぜ消費者は、自然界から取れる作物なのに、混ざり物のない工業製品みたいな規格米を求めるのでしょう。それは、日本人の純粋を求める潔癖症と、農業の現場をまったく知らない無知と、土から離れて傲慢になってしまった結果でしょう。傲慢の「傲」は人が土から放れると書きますから。
● 消費者は国を滅ばす王様だ
消費者は王様といいますが、こんな王様に従っていては、瑞穂の国の美しい自然はとことん壊されてしまいます。農家も流通業者も米屋もマスコミも、もっともっと消費者をリードしてほしいものです。メダカのがっこうも精一杯伝えていきます。現に私たちの会員には、心にゆとりを持ち、お金に感謝の心を乗せて使う素晴らしい消費者が育っています。収穫量にかかわらず田んぼ環境を買ってくださる「ありがとう田んぼ」の支援者も増えています。私は何千年も国を保ってきた日本の国民の思考力を信じています。効率よりも子孫に残す自然環境を選んで米作りをしている農家の言葉が、日本人の心に伝わらないはずがありません。絶対に持ってはいけないのが、どうせ分かってくれないだろうという不信感と諦めです。これが本当に国を滅ぼす心です。
● さらに上手を行く農家がいる
 さて、私は「カメムシの害による斑点米は、無農薬の証拠ですから、理解してください」と書くつもりでした。しかし、今年メダカのがっこうの各地の花まる農家は、ほとんどカメムシの被害にあいませんでした。カメムシ被害地域に囲まれている田んぼでもです。どうしてだろうと、稲刈り後の切り株を除いてみると、1株につき10匹以上も小さなクモ類がウロウロしていました。やっぱり生物多様性の田んぼになっていると、生きものたちが守ってくれるのです。「無農薬だからカメムシの害は避けられない」とは限らない。自ら限界を定めることなく、高みを目指して新境地を切り開いていく農家の生き方に感動しました。こんな素晴らしい農家と向き合える素晴らしい消費者となって、いのち輝く瑞穂の国づくりを着実に進めていきたいものです。皆さん、彼らのお米を買って食べてください。これが国づくりの第1歩です。