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中村陽子のコラム

2003年2月22日

リーダーは要らない

 川の中を群れで泳いでいるメダカが、急に向きを変える、空高く編隊を組んで跳んでいたガンの群れが、急旋回をする、海でイルカや鯨など捕食される敵に遇ったイワシの群れが、球体になって転がるように被害を最小限にくいとめる、これらの見事に統制のとれた動きをする野生動物の群れに、リーダーはいないそうです。
 自然界で生きていくためには、全体の感性をフルに活用して、危険を一番早く察知した仲間の動きに、みんながすぐ連動して、身を守るのですね。もし彼らにリーダーがいて、残りがみんな従わなければならないとしたら、もっと危険率が高まり、動きもバラバラになるだろう、と言われています。


 田んぼの中の小さな小さな生きものたち、単細胞の原生動物を顕微鏡で見てみると、一つ一つの単細胞が球や簾のような一つの形となって、見事な統一的な動きをして、敵から身を守ったり、太陽の光を多く受けるために、位置を変えたりしている様子に、感動します。
 これは、上下関係のある組織ではなくて、ネットワークの動きです。この野生動物たちの群れの動きは、一人では生きていけない動物が、みんなの命、つまり種の保存を大切にする時、一人一人の意見を平等に聞く民主主義でもなく、一人のリーダーに従う全体主義でもなく、その時一番適確な判断をしている仲間に連動することが、有効だということを、教えてくれます。
 さて人間界はどうでしょう。歴史上長い間、支配者を戴く生活をして来た人間は、かなり野生性を失ってしまいました。みんなの命の輝きなんか全く考えていない支配者の、価値観、期待される人間像などに良い子になって、一生懸命自分を合わせていると、すっかり野生の感性は消えてしまいます。そのダメージの大きさは想像以上、悲しいことです。
 メダカのがっこうも、悲しいかな、NPO法人になっていますが、組織としての弊害が出始めているので、それを避けたいと思っています。そのために、理事を初め会員全員の野生化をめざして、その時もっとも当を得た感性で判断し、動き出した人を察知して、一緒に動こうと思っています。しかし、保守保身から出ている意見や、みんなが生きていける方法を本気で考えていない人の意見には、私の心は動きません。「めーだーかーのがっこうは、かーわーのーなか、だーれがせいとかせんせいかー…」の歌の通りです。リーダーを、その一瞬一瞬で適切に変えられる社会、それは支配者のいない社会でしょう。そんな関係が良いと私は思います。
 野生の感性が鈍り、命は繋がっている、という感覚がなくなると、トキやメダカが絶滅しそうになっても、それと人間との関係が分からなくなって、原因の基を正さず、弱いものを保護する気分で、環境の仕事をしている感覚です。ここでは人間が生物多様性の一部に入っていません。
 こうしている間にも、絶滅していく種があることを思うと、本当に胸が痛みます。1日百種以上と聞いています。人間界でも、戦争や飢えで、分単位で人が死んでいっているのですね。ですから、私たちが心の底からうれしい気持になれないわけが、ここにあるということです。命と命が繋がっているので、私たちの意識の奥底に眠っている野生性が、現在の危機を察知しているのですね。今や生きる方向を急旋回して変えなければなりません。
 メダカのがっこうでは、180度転換する方向をいくつか示しています。それは、耕す方法から、耕さない方法への農業の大転換、数千年以上大地を耕しつづけてきた農耕を止めて、不耕起にするのです。
 食べ方も大転換をしましょう。日本人にとって米飯は健康の基です。まず、子どもたちの給食を米飯にしましょう。美しい瑞穂の国の田んぼを放棄して、外国から小麦を大量に輸入してその国の穀倉地帯を砂漠化し、その上、ポストハーベストで汚染された小麦で作った添加物いっぱいのパンを、子どもたちに毎日食べさせるなんて、なんて愚かな行為でしょう。美味しいご飯の味を覚えてもらいましょう。
 食糧も一人一人、1社1社が自給しましょう。みんながメダカが棲めるような田んぼ環境をサポートして、毎年その田んぼのお米を確保すれば、日本の自然環境と国民の食料確保が、同時に出来ます。
 「国の防衛は食にあり」です。地球規模の異常気象や、作物の不作がいくら報道されても、この国は自給率を高めようとはしません。
 国のリーダーに頼ることなく、私たち一人一人が急旋回する時です。命の声で動く野生の生きものたちに学びましょう。