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中村陽子のコラム

2006年12月10日

命の星・地球の視点で塩をみる

地球上でどんな生物が繁栄するかを決定するのは、神様ではなくて、ミネラルバランスです。46億年の地球の歴史の中で、人間が出現するミネラルバランスになったのは、最後の数百万年でした。初め頃の酸の海やアンモニアの海の時代には、それにみあった微生物が生きていたはずです。
この原則は今も変わりません。ある土地に生える草は、その土のミネラルバランスが決定します。前回までこのページを書いていらした書数_法の廣野さんの研究もこのことです。たとえば、カルシウムの足りない土にカルシウムいっぱいのスギナが生えるというように。
これは人間にも当てはまります。人間もたくさんの菌の働きによって生命を維持していますが、それも内なる海である体液のミネラルバランスによって、どんな菌が活躍するかが決まります。今まで弱い菌や弱いウイルスだとされてきたO157やエイズウイルスが活躍するのも、そのようなミネラル環境ができてしまった内なる海を持っている人間が増えているからなのでしょう。
人間は、土から取り出したものを土に返さず、地下から掘り出したものを元に戻さず、空気から取り出したものを空気に返さないので、地球のミネラルバランスは変化しています。そのために生態系が変わり、今まで眠っていた菌が目を覚まして繁殖し、増えすぎた人間を減らしたとしても、何の不思議もありません。
 このように考えてみると、塩というのは、スパイス的グルメ的興味や、色や形が珍しいからとか希少だからというような理由で選ぶものではなく、命の視点で考え、塩の基本をよく知り、自分で判断して選べる迫ヘを持つことが大切です。氾濫する情報に翻弄されない人になるために、原点から調べてみましょう。


●塩はどうやってできていったか
 塩は海でできます。現在山から掘り出している岩塩も昔の海が結晶したものです。その海のミネラルバランスをつくったのは、生きもの、主に植物です。植物というのは、光合成をする生物という意味で、藻類も入ります。それではこの地球の海に塩ができていった長い過程をたどってみましょう。
地球は水が液体で存在できる温度であったために水の星になりました。水にはその中にミネラルを溶かし込む性質があります。初期の地球は、窒素ガス、炭酸ガス、青酸ガスなどに覆われていて、岩の陸地と強酸性の海であったようです。
 その酸の海を一変させたことがありました。それが酸素の出現です。酸素は藍藻というカビのような原生生物が光合成を発明したことで発生しました。光合成とは、水を光で酸素と水素に分解し、その水素エネルギーを使って、水と炭酸ガスからでんぷんを作る営みです。その過程で生まれてきた副産物が酸素です。酸素は海の中に溶けていた金属元素と結びついて酸化させ、固定化して海の底に沈め、海の水を真水に近くしました。
 光合成は45億年の地球の歴史の中で最大の発明です。何故かというと、それまでの生物は地球上の物質だけを使って細々と生きてきたのです。そのスピードは例えていえば、1億年かけて原始細胞1つが2つに細胞分裂するというようにです。ところが、光合成は、地球の外からやってくる太陽エネルギーを使って澱粉という生物の体を作ることができるようになりました。今でも地球上の全ての生命は、皆この澱粉という栄養によって生きています。澱粉はたくさんの生き物の体を作りました。草や木や森、それが地下にストックされた石炭や石油。これが現在続く全ての地球の富の蓄積の始まりです。
しかし、当時の地球の生き物たちにとって、酸素は猛毒でほとんどが焼け死んでしまうほどの大変な環境破壊でした。この環境に適応して進化して生まれてきたのが、好気性菌、つまり酸素を吸って澱粉を燃やして生きるエネルギーにし、炭酸ガスを出すことに成功した生物で、私たち動物の先祖です。この呼吸のいう営みは光合成の逆のシステムで、これも光合成に劣らないほどの大変な発明なのです。
空気中では、たくさんの酸素がオゾン層を作りました。そのオゾン層は、有害な紫外線から生命を守るフィルターとなり、生命を海から上陸するのを可能にしました。初めに上陸したのは藻類だと考えられています。これが植物へと進化していき、草や木が生えては枯れ、ミミズや菌に分解されて100年に1センチのペースで土ができていきました。
植物はその根から根酸を出して岩石を溶かしていろいろな元素を集めたり、水や空気中の元素を使っていろいろ組み合わせいろいろな物質を作ることができます。特に陸地に上がって一番必要だったのは重力に耐えるしっかり細胞膜を作るためのカルシウムでした。そこで植物は、カルシウムを作る迫ヘを身に着けました。
このように、酸素も、オゾン層も、カルシウムも、土も、生命にとって必要な要素はみんな植物が作ってきました。最後に、地球を循環する水が、太陽の熱で海から蒸散して大地に降り注ぎ、その要素全部を溶かし込み海に溜めていきました。ですから海には生命誕生から進化の過程に関わった全ての元素があるはずなのです。こうして海のミネラルバランスが作られていきました。ですから、海の水は地球の命のエキスであり、塩はその結晶なのです。
●もし塩を摂らないとどうなるのか
 このように植物は自ら必要なミネラルを作ることができますが、私たち動物は、塩なしには生きられません。『塩戦記』という第二次世界大戦の東ニューギニアで、後方補給を断たれた師団の軍医さんの手記があります。それによると、粉みそ、粉醤油、塩という兵糧がなくなると、体液が作れないため、食べても戻し、全ての機能が衰弱し戦列から落伍して、涙も出ずに死んでいくしかなかったそうです。また、塩というのは、体力や精神力に大きな影響を与えるため、人間を制御管理するのに使われてきました。特に戦時には、塩を食べた軍隊は強くなり戦争に勝ち、また戦争が終わって占領地の治安を守る時は、塩を減らして兵隊をおとなしくしたといわれています。
塩は、人間にとって、内なる海である体液を作るのに欠かすことのできない材料です。単なる栄養素の一つではありません。人間の体内で、食べたものが36〜37℃の低温で燃えて熱量に変わるのは酵素のおかげで,1つの生体反応に付き、1つの酵素が働いています。体内の数千の酵素を動かしているのが、微量元素だといわれています。ですからどんなに微量でもなくてはならない元素があり、それはまだ人間の科学で解明されておらず、分かっている部分だけを頼りに、マンガンが足らないからマンガンだけ、亜鉛が足らないから亜鉛だけ、というような摂り方をしても無駄だということです。
●内なる海
地球を循環する水により、全ての要素が溶かし込まれている海の水は少しずつ濃くなっています。その過程の中で、海の水の塩分濃度が、0.85〜0.88%、ちょうど母親の羊水と同じ頃に、人間の先祖が現れてきたといわれています。そして人間は、その時の海を血液などの体液という形にして常に内なる海として体内に抱えて、陸の生活をしているのです。体液の中でも最高のものはやはり羊水でしょう。人間の受精卵は、羊水の中の10ヶ月間に数初ュ年の進化をたどります。
その羊水を初めとした人間の体液のミネラルバランスが狂ってくると、健康を維持するのが難しくなってきます。現代人のミネラルバランスが狂ってきている大きな原因は、ほとんどの日本人が摂っている塩が過度に精製された塩化ナトリウムが99.6%以上の塩であるということと、添加物の塩をたくさん摂っていることです。添加物の塩とは、たとえば、加工食品の原材料のところに書かれているアミノ酸はグルタミン酸ナトリウムのこと、酸化防止剤とかビタミンCと書かれているのは、アスコルビン酸ナトリウムのこと、発色剤は亜硝酸塩、リン酸塩というように、ほとんどの添加物はナトリウム=塩です。これは体液を作る良い材料にはなりえないばかりでなく、体内で分解される時、カルシウムなどのミネラルをつかってしまい、バランスをさらに崩す原因になります。これは摂ってはいけない悪い塩です。
それでは、体液を作る良い材料になる塩は、どんなものでしょう。それは、命を動かす全ての元素が体液に近いミネラルバランスで入っている塩ということになります。その塩の理想的な摂取の方法は、塩そのもので摂るよりたくさんの有機物や酵素や菌の体を通ったもの、醸造発酵して作る味噌や醤油、自然海塩で作った梅干や沢庵や漬物などがいいのです。料理に使う塩も自然海塩がいいですが、そのまま直に振りかけて摂る時は、よく炒ったものがいいのです。
冒頭でも述べたように、地球の土や水、空気のミネラルバランスが地球の生態系を決定しているように、体液のミネラルバランスが、体内で働く酵素や菌の種類や数を決定しています。ですから、内なる海が健在ならば、その海は数々の悪条件に適応してきた物凄い生命力を発揮させる力を持っているので、人間はかなり厳しい環境の中でも健康に生きられるし、多くの病気から立ち直ることができるのです。
●海の塩が教えてくれた自然観
 海の塩の成り立ちや、生命にとっての大切さに目覚めると、地球上の全ての命が大切で、何一つ人間の都合で殺してはいけないことが分かります。もっとも愚かな行為は、地球で生きる命にとって必要な酸素やオゾン層、カルシウムや豊かな土を作ってきた植物を除草剤で殺すことです。大地のエキスを全て溶かし込んで作られている海の水のミネラルバランスが、私たち人間が生きていけないものに変わってしまいます。皆さんは、世界全体の農薬や化学肥料の使用量の半分以上が、この狭い日本に撒かれているってご存知ですか? 現に地下水は窒素と燐に汚染されています。海の水も然り、だからといってまだ汚染されていない遠い国や島の塩を買う日本人って、へんだと思いませんか? 日本の土が海が、わたしたちの体液環境を決めるのです。私は海の水の正体を知って、全ての命を活かす方法で、日本の自然再生がしたくなったのです。