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中村陽子のコラム

2006年8月18日

本当の環境教育ってなんだろう

●子どもたちは、やり切る体験をさせてあげたい
 先日、ある農家で、情けない体験学習田を見ました。イネの植え方はめちゃくちゃ、イネが何処にあるのか分からないほど草ボウボウの田んぼです。そこで草取りも中途半端のまま、生きもの探しに興じる子どもたちに会いました。かつて、メダカのがっこうも、農家の好意に甘えて中途半端な田んぼ体験をしていたことがあります。しかし、これを廃して行かないと、日本の自然再生を託す子どもたちの環境教育にならないと反省し、昨年よりメダカのがっこう方式の田んぼ体験をはじめました。


 メダカのがっこうの田んぼ体験は、まず1反の田んぼを買うところから始まります。買うといっても土地を買うわけではなく、無農薬・無化学肥料で、冬から水を張り、生きものいっぱいの素晴らしい田んぼ環境を守ってくれている農家の田んぼを1年間使わせていただく料金を支払うということです。その金額は、その農家がその田んぼから得られるはずの収入の額です。こうして私たち自身が子どもたちより一足先に、自分たちの田んぼでイネ作り体験をする覚悟をします。
 田植えは、丈夫に育った苗を2〜3本ずつ、きっちりと田んぼに引いた縦横の線に揃えて整然と植えます。こうしないと、農家の方が機械除草が出来ないからです。ぐちゃぐちゃに植えてしまった時は、責任を持って手除草に来ることになります。6月〜7月の田の草取りは無農薬でお米を作る農家にとって一番大変な仕事です。この働きは収穫量にかなり左右します。稲刈りは、最後までちゃんと刈って、お米になるまでの過程、乾燥、籾摺り、精米の方法を勉強します。豊作でも、冷害や台風で不作でも、その田んぼで穫れただけのお米が子どもたちの元に届けられます。全校生徒の給食のご飯に炊いてもよし、皆でおむすびを作ってもよし。日本人の主食がお米であるわけを、五感と胃袋で体験していただけます。
●田んぼ体験は命の大切さを伝えられる田んぼで!
 生きものいっぱいの田んぼでする生きもの調査はとても楽しいものです。2002年から一緒に調べている農家の人たちも、生きものの様子を観察するのがうれしくて、田んぼへ行くのが楽しくなったり、髪の毛のように細くて小さいイトミミズやユスリカを数えながら、「この小さな生きものたちを殺すってことは、俺たちの首を絞めてるってことだよな」って言い出しました。そしてどうやったら、生きものと一緒にイネが育てられるか、技術の情報交換なども始まりました。農業者間の友情も芽生えるのです。そう、この田んぼには、地球上の多くの生きものたちの命に思いを馳せさせる教育力があるのです。
 最近「命の大切さを教える」という言葉をよく耳にしますが、自分たちにとって都合の悪い草や生きものを簡単に薬で殺してしまう農業や、商品管理のためにたくさんの添加物を使っている産業を担っている大人たちに、命の大切さが本当に教えられるでしょうか? 生物多様性を生かした農業をめざし、みんなが生きていけるシステムを真剣に模索する大人たちだけが、その姿で教えていけるものでしょう。
●マイナスの環境教育はやめよう。
 たとえばホタル。都会ではホタルを飼育し昼でも施設の中でホタルを見ることが出来ます。「ホタルの幻想的な光を堪能しました」などと参加者の声が紹介されていますが、おかしい、へんですよね。どうしてうれしいの? ホタルのメスが飼育箱に閉じ込められて繁殖に専念させられ、オスだけが飛び交っていて、時間も昼夜狂わされているのに。ホタルが本当に生きられる環境を取り戻す努力をみんなでして、自然にホタルが戻った時が、本当にうれしい時ですよね。ホタルの里作りでも、餌であるカワニナやモノアラガイなどを放してホタルを繁殖させても、3年が限界だそうです。今までどうしてホタルがいなくなったのか、外来種、水路の形態、農薬の影響など、複数の原因を調べて環境を取り戻す地道な努力をしなければ、本当にホタルは戻ってきません。
 佐渡では、トキが100羽近くになったそうですが、彼らが生きていける山や田んぼを本気で用意しなければなりません。それが飼育や保護で命を増やした人間の責任です。トキやホタルや子どもたちが、この地球に生まれてきて本当に良かったと輝いて生きられるように、メダカのがっこうと力をあわせてがんばりましょう!