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中村陽子のコラム

1999年4月18日

草の力と人の知恵

草の働きに魅せられて、昭和37年から実験観察研究を重ね、書数_法と言う雑草の効力を活用して安全でおいしい作物を栽培する方に、最近出会いました。廣野壽喜さんと言う山形に本拠地を置くお百姓さんです。
彼は山に山菜を採りに行くと、同じ場所に生えているのに、土壌中のおいしい部分を吸収してあくのない山菜類と、にがみを上部に集め白い部分に甘味があるウド、臭みを集めるサクの根、毒を集め美しく咲くトリカブト、と言うようにその植物に組み込まれた遺伝子の違いによる特性に注目、畑に生える草を観察しそれぞれの草の働きを調べました。


まず日本の酸性土壌を中和する草として、スギナとスイバが挙げられます。スギナは土筆やかぼそい体を支えるだけなら必要ないほど根が深く、いくら取っても取りきれないので、地獄の三丁目から生えてくると言って嫌われていますが、地中深くから珪素を吸い上げ光合成で珪酸カルシウムいっぱいのアルカリ性の体を作り、枯れて土を中和していると考えられます。PH5,5の酸性土壌もスギナが一回生えて枯れるとPH6.5に改良されているのです。スイバは葉先に土中から吸い上げた酸を溜めています。(PH1.6の強酸、食酢でPH3〜4) それを空気中に放散しているのか定かではありませんが、やはりPH5.5の土を一回の繁茂でPH6.7にまで改良するのです。
また、土を肥沃にするのは窒素固定をする豆科の植物で、ウマゴヤシやカラスノエンドウなど、冬の寒さ凍結から作物を守るのはハコベ、夏の干ばつから守るのはスベリヒユ、土壌中の有害物を無害化するのがドクダミ、タンポポ、作物の成長を促すのがアカザ、作物をおいしくするのがカヤツリグサ、などなど。その他にも、縦横に這っている草の根が土の乾燥と大雨による土の流出を防ぎ、ミミズなどの土壌動物や菌の絶好の住処となって、土作りに一役かっているのです。
こうした草の働きをコツコツと実験してデータ-を取って確認している廣野さんが、もっと素敵な発見をしたと言うのですが、これが本当に面白いので聞いてください。
彼は、スギナが酸性土壌を中和する実験をするため、PH5.5の土でスギナを生やした箱と、比較用に草を抜いて畑を再現した箱を用意しました。ところがその比較用の箱にスベリヒユが生え始めたのですが、何か理由があるのだろうとそのままにしておきました。スギナの箱の方が枯れて土になったので両方の箱のPHを測ったら、予想と違ってどちらもPH5.5の土がPH6.5になっていました。その上ほうれん草を播いてみたら、スベリヒユが改良した土の方が出来が良かったそうです。わけあって生じた草を見守った結果です。
人間は自分のしたことに意味をつけたがる動物なのに、スギナで改良した人為より、無為自然の改良の方に軍配があがったことを、驚き喜べる人間は素敵だと思います。
自然の働きを知ることが本当の人の知恵ではないでしょうか。