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中村陽子のコラム

2016年3月20日

もし逆表示でなかったら農産物はどういう表示になるのか ―遺伝子組み換えの表示が消されていく―

●逆表示とは何のことなのか、ご存知ですか?
 一般の商品は、その商品を作るのに使った原料を、重量の多い順に表示することになっています。例えば、ポテトチップチョコレートというお菓子には、じゃがいも(遺伝子組み換えでない)、植物油脂、食塩、ココアバター、砂糖、全粉乳、キャラメルパウダー、脱脂分乳、乳化剤(大豆由来)、香料などというように。ここを見れば、砂糖や乳製品をやめている人はやめる判断ができるし、じゃがいもは遺伝子組み換えでないことが分かります。
 しかし余談になりますが、ここにも隠れ遺伝子組み換えがあり、大豆由来の乳化剤は大豆が遺伝子組換えでも書かなくても良いことになっているのでわかりません。こういう場合ほとんどが遺伝子組換えだと思って間違いありません。ですが、おおよその原材料はわかります。

 ところが、農産物になると、話は全く事情が違います。慣行農法といって、行政の指導に従った防除暦(農薬や化学肥料を播くスケジュール)に従って栽培した作物は、何も表示しなくてもよいことになっています。例えばコシヒカリの栽培なら化学合成農薬を18回、化学肥料を7.2回が防除暦に記されています。
 使う病害虫防除の農薬はどんなものかというと、4月には苗の消毒としてイチバン、5月にかけてカビの予防としてダコレート水和剤、いもち病や虫の防除にツインターボフェルテラ箱粒剤、7月には病気予防にモンカット粒剤、いもち病や虫の防除にフジワンラップ粒剤、8月の出穂直前にはいもち病や虫の防除にノンプラストレパリタ粉剤DLトビームエイトスタークルゾルとバシタックゾル、穂揃期にはラプサイドキラップ粉剤DLとラプサイドフロアプルとキラップフロアプル、そしてカメムシ防除のダントツなどがあります。
 この他に除草の農薬として、初期にはメデオ、ビラクロン、イネキング、シリウスエグサ、ウィナー、イッポンDジャンボ、ビクトリーZジャンボ、中期にはエーワン、コメット、ゲットスター、サンパンチ、サーベックスDX、草が残る場合は更にサンパンチ、ザーベックスDX、後期にはヒエ専用の除草剤としてヒエクリーン、クリンチャー、ヒエと多年生雑草にクリンチャーバスME油剤、ワイドアタックSC、多年草雑草にバサグラン、クサネムとイボクサという雑草対策にノミニー溶剤などがあります。
 この他に畔や農道の除草に冬のうちからスギナの特効薬であるカソロン粒剤、5月中旬にはザクサ液剤とランウドアップマックスロード、カーメックス・D水和剤、7月以降は再びザクサ液剤とラウンドアップマックスロード、三共の草枯らしという農薬が暦に紹介されています。

 実に馴染みのない薬剤名ばかりであり、書くのも読むのも嫌になるほどの農薬を使うことが慣行農法なのです。そして、この防除暦通りに栽培されている作物には、何も表示する義務がありません。
 しかし農家自身や食べる人の健康を考え、生きものたちにも配慮し、自然を取り戻したいという気持ちで農薬や化学肥料を使わずに作物を栽培している農家は、それを証明するために、検査料と検査員の経費を支払い、いろいろ面倒な書類を作成しなければなりません。また特別栽培という制度は、薬剤の数や回数を半分にするものですが、こちらは農薬の使用回数などの表示義務があり、それは望ましいことですが、何も書いていない慣行農法の作物の方が、消費者にとって農薬使用をイメージしにくく、価格の安さも手伝って受け入れ易くなってしまうという問題があるのです。
 もう一度慣行農法の農薬使用の例をあげますと、トマトで24回、アスパラガスで15回、ナスで31回、大根で21回、白菜で25回、白ネギで20回、ニンジンで17回、リンゴで44回、観賞用の菊になると60回という凄さです。化学物質過敏症の方は、とても菊いっぱいの葬儀会場には入れないそうです。

 もし慣行農法の農作物に、使った農薬を多く使った順に表示することが義務付けられたら、みんなの意識はガラッと変わると思います。今回は、何も表示していないコシヒカリがどれだけの農薬を使っているかと調べて記載してみました。お米袋の裏にこれだけの農薬名が書かれているところを想像してみてください。表示することが最も大切なことです。表示されていれば、後はそれぞれの価値観に従って判断できるからです。
 遺伝子組み換えの表示にも異変が起きています。もともと醤油や油には遺伝子組み換えの表示義務はないので、何も書いてなければすべて遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシの醤油や油です。しかし豆腐や味噌には遺伝子組み換えの表示義務があります。よく豆腐の原材料の所に、大豆(遺伝子組み換えでない)と書かれていますが、最近いくつかの豆腐でこの表示がなくなっていることに気づき、電話をかけてみました。すると日本ではまだ大豆の遺伝子組み換えの栽培許可が下りていないので、国産大豆と記載すれば遺伝子組み換えではないのに決まっているから、両方を書くことは過剰表示になるのでやめるようにという行政指導があったとのことです。
 何が起こっているのでしょう。TPPの農産物の自由化の準備として、遺伝子組み換えの作物や加工品が日本に入ってきやすいように、また遺伝子組み換えを原料とした加工品が作りやすいように配慮していると考えられます。
 遺伝子組み換えは何の問題もないという議論もあります。食糧危機を救うという議論もあります。すべての意見を受け入れたとして、表示だけはしていただくことは譲れません。あとは私たち国民の判断にお任せいただくとして、判断基準になる表示を義務付けることはみんなで国にお願いしましょう。メーカーにも電話をしましょう。
 アレルギーの原因は、小麦や卵や牛乳ではありません。化学合成された農薬を使用したり、遺伝子組み換え作物の小麦やそれを飼料とした卵や牛乳なのです。議論のすり替えに騙されずに、生きる環境を安全な食料に困らない日本を次世代の残せるような先祖になるぞ!と中村陽子は心を決めています。