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中村陽子のコラム

2018年11月20日

千葉県いすみ市で全市で有機米給食が始まりました。

 武蔵野市の境南小学校が40年前から山田征さんという一人の保護者とチャレンジ精神旺盛な海老原洋子さんという栄養士さんのおかげで安全給食になったことは後日紹介させていただきますが、今回はそれとは違い、市長主導で始まったいすみ市の有機米給食が人材に恵まれて軌道に乗った成功例をお話します。これは行政主導の良いケースだと思い、お話を伺ってきました。

 いすみ市の有機稲作は、太田市長がコウノトリで有名な兵庫県豊岡市を視察し、2012年秋に豊岡市の中貝市長の講演を開催したところから始まりました。90%が田んぼであるいすみ市もコウノトリの里を目指そうとしたのです。そのためにはコウノトリの餌場として田んぼを生物多様性にしなくてはならず、自然と共生する里づくり協議会がトップダウンで作られました。
 この協議会の農業部会の中心的存在である矢澤喜久雄さんと、いすみ市農林課の鮫田晋さんにお話を伺いました。矢澤さんは農事組合法人みねやの里の代表理事をされています。
 彼は、コウノトリを観光資源にするという豊岡市の物まねではだめだと思っていましたが、無農薬栽培を広げる活路に悩んでいました。しかも、2013年初年度の無農薬栽培は草が予想をはるかに超え、惨憺たる結果に終わりました。
 これを打開したのがこのプロジェクトの担当になったいすみ市の鮫田さんです。彼は有機稲作の技術的指導を民間稲作研究所の稲葉先生にお願いし、2014年から3年間の研修を開催しました。
 1年目に、稲葉方式の有機稲作技術、秋起こし2回、2回代掻き、深水管理で草を抑えることに成功し、6~7俵/反の収穫がありました。「田植え後1回も田んぼに入らなくてもいい」というのも農家にとって魅力でした。2年目からはさらにいすみ市に合った方法が指導されました。
 初年度の有機米の収穫量は4トンばかりでしたので、農業部会で「子どもたちの給食に使うのがいい」という意見が出て、太田市長のOKがすぐ出ました。これは10小学校の1か月分のごはんになりました。保護者からの評判もよく、面積も増え、2016年は16トン、2017年からは全量やることになりました。この間、お米の行先について、市の方では少しでも高く売る意見もありましたが、少しばかり環境ブランド米にするより、子どもたちに食べてもらう方が正解で、農家のやる気につながりました。
 買い上げ価格は20,000円/60kg(1俵)で世間の有機米より安いですが、それよりも少ない給食費との差は行政が負担することになりました。
 いすみ市は、有機米給食で全国的に注目されることになりました。矢澤さんは、「これは鮫田さんがいたからできた。彼は生産者と一緒になって必要なことを考えて実行する希少な職員だ」と言います。鮫田氏の経歴は異色です。彼は、東京でサラリーマンをしていましたが、いすみ市の海に時々サーフィンに来ているうちに、海の近くに住みたくなって移住しました。市役所の職員に応募し、外から来たからこそいすみ市の良さがよくわかっている人間だとアピールして運よく採用されたそうです。
 有機農業、有機米給食、添加物、遺伝子組み換え飼料や食品などの意識については、市役所も市民もまだまだ関心が低いのが現状です。しかし、有機農家が有機野菜を使って欲しいと申し出があったり、野菜の有機栽培も指導者を入れて開始しました。栄養士や調理師さんの自発性もこれから徐々に出てくると思います。彼は小学校の総合学習の時間に、生きものいっぱいの田んぼとそこでとれたお米のお話を昨年だけで30回もしているそうです。子どもは親の意識を変える力があると彼は言います。
 課題は山積していても、今やることはただ一つ、有機米給食、安全給食の実体を作り上げていくこと、子どもたちの心身を作る安全な給食を実現することに力を注ぐことだと彼は言います。
 有機米給食に惹かれていすみ市に移住して行ったメダカのがっこう会員の家族がいます。他にも友人からいすみ市に移住した方たちの噂を聞きます。みんないすみ市の有機農業と安全給食への道を盛り立ててくれると思います。