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中村陽子のコラム

2009年12月30日

おいしい手造り醤油できました!

醤油師、岩崎洋三さんとの出会い
 2007年に野草料理と自給自足の師匠である若杉友子さんから、手造り醤油をいただき、「おいしい醤油が簡単に出来るからメダカのがっこうでも作ったらいいよ」と勧められました。さっそく2008年春、醤油のもろみを仕込みに、長野県伊那市に出かけました。ここで醤油造りの指導者である、岩崎洋三さんに出会いました。岩崎さんは長野県を中心に各地に出かけて手造り醤油を指導しておられる方で、私が今まで手造り醤油を頂いたことがある素晴らしい農家も、彼の指導で作っていることがわかりました。手造り醤油の発信源に出会ったと思いました。この年、今まで味わったことのない薫り高い醤油ができました。
醤油造りの歴史
 戦前、長野では醤油師が春には麹をつけた大豆を農家に配り、冬には醤油搾りの舟と呼ばれる木の箱を背負って各農家を回る習慣があったようです。今のように味を追求することもなく、糀屋さんも醤油師も研究心もなくただ請負仕事の感覚で行われていたそうです。
戦中戦後の物資のない時代に、時間がかかる自然醸造はすたれ、即席に醤油らしきものをつくる技術が出来上がっていったようです。この流れの延長として、現在大量に市販されている醤油は、自然醸造のものはなく、表示を見ればわかるように、アルコールやカラメル色素で体裁を整え、ソルビン酸など添加物を加えたものになっています。
そんな時代に、岩崎洋三さんは手造り醤油の技術を復活し、科学し自然醸造の新たなる技術を研究している萩原忠重さんに出会い、師匠と仰ぎながら共同研究をしていました。萩原さんは数年前にお亡くなりになりましたが、岩崎さんの借りた古民家の大家さんが萩原さんだったというご縁だそうです。 
現代の醤油師となった岩崎さんは、醤油造りの仲間を増やすこと、醤油師の後継者を育てること、そして醤油の麹付けの技術を受け継ぐ若者を探しています。今回の醤油搾りも井上さんという優れた後継者と連れだってこられました。しかし、醤油師では生計は立てられないので、農業や民宿などの生業を持ちながら、この技術を受け継ぐ若者が必要です。どうぞ皆さんも条件が合ってやる気のある若者をご紹介下さい。
醤油造りを科学する
 荻野さんと岩崎さんの研究は、従来の醤油造りの行程や作業の意味を、一つ一つ科学的に突き止めていくことでした。そして大切なポイントを抑えたもろみの管理方法を、何の経験もない私たちにその作業の意味と一緒に教えてくれるのです。今でも醤油作りを調べると、毎日樽をかき混ぜることが記されています。ところが私たちの醤油造りは、始めの3回ほどは3日おきに天地返しをしますが、次の1ヶ月は1週間に1回、その次は半月に1回、夏を過ぎたら1ヶ月に1回でいいのです。これはかき混ぜる意味が、塩を溶かすためだからです。麦麹をつけた大豆と塩をよく混ぜて水で溶いたものを「もろみ」といいますが、はじめに樽の中のもろみに手を入れると、溶けていない塩がザラッと触ります。この場合かき回すだけでは塩を溶かすことは出来ません。もうひとつの樽を用意して天地返しをするのが効果的です。始めの3回ほど天地返しをすると、塩分濃度は早い段階でかなり均等になり、もろみの表面にカビがつきにくくなります。
 またもろみの醸造には、積算温度が成否の鍵を握ることを突き止めてくれました。ですから私たちの醤油造りは、薄暗い蔵の中ではなく、天気がいい日には一番暖かいところで日光浴をさせ、夜になるとその熱を逃がさないよう部屋や温室に入れます。こうすると夏が過ぎる頃には80%以上醤油としての醸造が出来てしまうのです。2年もの、3年物にしようとしても、うまくいって残りの10%ほどの醸造が進むだけで、はじめの5ヶ月ほどでほとんど勝負が決まるようです。
 もうひとつ大切な条件は風通しの良さです。醸造の過程で少しずつ水分が蒸発していった方が、風味にあるおいしい醤油ができるようです。
匠の心は命あるものをつくる
 醤油造りを科学してくれた岩崎さんは、匠の域にいる方です。みんなで24樽、それぞれ色も濃度も表面の表情も違うもろみが持ち込まれましたが、その一つ一つのもろみの育った環境を言い当てるのです。「どんなところに置かれていたのか目に浮かぶ」という表現をされていました。みんな自分の成績を付けられるような緊張感を味わいました。岩崎さんは「このもろみを引き受けました。これをいい醤油に搾ることは私が責任をもってします」と言って、お湯で緩める濃度、搾り袋に注ぐ量やスピード、圧力をかけるタイミングや時間を見計らって、心をこめてゆっくりと話しかけながら搾ってくれます。最後は油圧ジャッキを使いますが、その鉄の胴体に「命あるものをしぼる」という文字が黒いマジックで書かれていました。そして最後に88度まで火入れをしたとき、17BE(ぼうめ)という濃度に仕上げてくれます。足らなければ塩を入れ、濃ければお湯を入れます。しかしそれも僅かの差で、ほとんどが17BEぴったりになり、一緒に手伝った参加者全員が拍手で喜び合いました。
みんながつながる心豊かな醤油搾り
 醤油搾りは、たくさんの働き手が必要です。大釜でお湯を沸かす人、樽を運ぶ人、搾り袋からもろみ粕を出す人、干す人、搾り袋を洗って干す人、醤油に火を入れる人、温度を常に気をつける人などなど、少し前に教わったことを次の人に教えながら、作業が滞らないよう気を配りながら動きます。最初の樽の人も最後の樽が搾り終わるまで帰りません。そして、もろみの違い、醤油の味の違いなど、それぞれの醤油を指で舐めながら、感想を述べ合い、完成を喜び合います。この一体感は参加者全員が感じたようで、みんなとつながって豊かな心になったという感想を多くの方からいただきました。これを毎年再現し醤油造りの伝統にしていきたいと思いました。
 皆さんもメダカのがっこう会員農家の有機大豆と自分のこだわりの塩で自然醸造の醤油を1年分造りませんか! ご希望の方は、できるだけ早くメダカのがっこう事務局までお申込下さい。