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中村陽子のコラム

2002年1月19日

みんながみんないい関係

 みんなが相手を否定しないだけでもすばらしいのに、互いに優れた点を認め合い、取り入れあって、もっといい方法を生み出そう、というすばらしい交流の場に、最近立ち会いました。「手をつなぐ無農薬・有機稲作農家」の会です。
 主催団体は、9団体、農薬や化学肥料の問題点に、日本でいち早く気が付いて30年以上前から取り組んできた日本有機農業研究会をはじめ、自然農法国際研究開発センター、全国合鴨水稲会、全国産直産地リーダー協議会、日本自然農業協会、日本有機農業学会、農と自然の研究所、民間稲作研究所、メダカのがっこうの田、日本不耕起栽|普及会、いずれも現在、環境保全型稲作として注目されている元気な稲作集団です。
 彼らはそれぞれ歴史と実績をもち、それぞれの循環型を求め、方法も違います。例えば自然農法や不耕起栽|は、有機農業とは、相いれないものがあったり、それぞれがもつ哲学も方法も違う中で、今どうして自分たちの枠を越えて手をつなげるようになったのか、考えてみました。


 いろいろな会のリーダーにお会いしてお話を伺うと、それぞれが各地で一から考え、編み出した方法や、長年かけて築いてきた信頼関係、ネットワークなど、本当に頭が下がる方ばかりです。
 彼らは、一応の組織が確立され、世間に認められるようになっても、これで終わりと言うことがありません、それは、本当に地球の命にとっていい方法をいつも考えているからなのだと思います。特に、農業に携わる人は、言葉や哲学でかっこつけることなく、常に結果を見ています。慎重です。本当に健康にいい作物ができたのか、本当に生物相は豊かになったのか、やってみて、自分で確かめるまで余計なことは言いません。
 その農家の方たちの意識はすばらしく進んでいます。「俺たちは、作物だけを作っているのではない、水も空気も、生き物たちの生息場所も、日本の自然環境、美しい国土を作っているのだ」と言うのです。まさに日本を守ってくれるのはこの人たちだ、と思いました。彼らは、都市部の消費者が賢くなるのを待つことなく、人間を含めた地球の生き物たちのためにスタートを切ってくれているのです。ありがとう、消費者もすぐに追いつかなくては。
 手をつなげるようになったもう一つの理由は、それぞれの技術が完成に近づいてきたからの様です。どんなに優れた農法でも、その土地の土壌、地形、水事情などにより実行困難なところも出てきますから、いろいろな方法が完成されてきたと言うことは、日本中どんな土地にも提案できる方法を幅広く持つことになります。適地適農法のスーパーアドバイザーですね。
 メダカのがっこうの本校で行っている不耕起栽培も、冬期湛水田をもって完成に近づいてきました。田んぼの生き物たちにとって、水が入れられたり、抜かれたりすることは生きていくうえで大変厳しい環境です。不耕起栽培は、今までも夏の中干しがないために、耕さないことで大量に湧く藻類を始まりとする田んぼの生き物たちにとって優しい農法でしたが、冬に水を張ることで、そこは湿地と化し、湖沼と同じく野生生物たちの楽園となるのです。農業技術の面から見ても、ヒエや粟など春先の草の抑草効果に優れ、除草の手間が減り、さらに、水面を目ざとく見つけて飛来する水鳥たちの糞は、燐酸分を多く含み、春先に田に入れる燐酸肥料が必要なくなるのです。
 ここで素晴らしいことは、野鳥の保護団体と農業者の利益が一致すると言うことです。
 佐渡では昔トキは田んぼを踏み荒らす害鳥で、それを追い払うのは子どもの役目でした。マガンが越冬のために訪れる宮城県蕪栗沼でも、稲刈りが飛来より遅かった時代にはマガンは害鳥でした。本当に技術が進歩すれば、害鳥が害鳥でなくなり、害虫を生態系の中に抱え込んだ生命力のある稲作りを可能にし、野鳥が休息する冬期湛水田は、草を抑えて除草と施肥の手間を省く、みんながみんなうまく行く方法があるのですね。
 本当に地球のことを思い、人間を含む全ての生きものたちにとっていい方法を考えている人たちがいます。長い間孤軍奮闘してきた天才、発明家農民たちです。野生生物を保護してきた人たちもいます。湿地の研究をしてきた人もいます。私は今、みんなが手をつなぐ場面に立ち会える幸せを味わっています。都市部の私たちもこのお米を食べることで手をつなぎましょう。