おらが田んぼの生きもの語り部になろう
田の草フォーラムに集まった農家の方たち
今年1月の第3回田の草フォーラムは、自然農法センターや民間稲作研究所とメダカのがっこうが共催でしたので、全国から自然農法や、長年農薬・化学肥料を使わない有機栽培農家の方たち100名以上が一堂に会し、感動的な出会いをすることが出来ました。
こだわりを貫いているいくつかの農家組織が垣根を越えて集まる機会は、なかなかありません。わたしたちメダカのがっこうが、都市部の市民を中心になって出来た農家支援の啓蒙団体であること、また消費者の側から農家の方たちの田の草の苦労を減らしたいという、純粋な思いで開いた会だからこそ、集まっていただけたと思っています。
彼らは、地域では変人としての存在で、村八分にされて、長年口を利いてもらえなかったり、開き直って変人としての市民権を獲得したりして生きてきました。しかし、彼らこそが本当にいままで日本の自然環境を守ってきてくださったのだと思うと、感謝の気持ちがいっぱいになり、メダカのがっこうとして、もっとお役に立ちたいと思いました。
みんなで楽しめて、農家の役にも立つ生きもの調査の考案者は岩渕先生
メダカのがっこうがなぜ田んぼの生きもの調査を始めたかというと、私たちはまず耕さない・冬・水・田んぼの豊かな生きものたちに出会いびっくりし、この田んぼを広げたいと思いました。みんなにこの田んぼのすばらしさを語りました。しかし言葉では伝わらないこの感動、でも一回でも来たことのある人はカエルや水生昆虫に魅了されてしまいます。
丁度このころ、2001年のメダカのがっこう設立当時、岩渕先生、宇根先生、湊先生に会い、田んぼの生物指標や生きもの調査の研究を知りました。
この生きものいっぱいの楽しい田んぼで私たちもやってみたいと思い、さっそく岩渕先生に顧問になっていただき、専門家ではなく、市民も子どもたちも楽しめて、農家にも役に立つ生きもの調査の方法を1から考えていただきました。
生きものに聴いてみる姿勢は、国も国民も動かす
生きものいっぱいの田んぼの価値を世間に知ってもらいたいのなら、生きものに聴いてみるのが一番です。また、生物指標の研究をすることで、国には環境直接支払いという形で、また国民にはお米を食べることで、農家を支え後継者が出てくるようになれば、日本の田んぼが守られ、その結果、日本の自然再生ができると考えました。
しかし、生きもの調査には副産物がすばらしくありました。生きものを見る目を持ったおかげで、田んぼは楽しいイベント会場に変わりました。
私たちのガイドに誘われて、たくさんの都市部の家族連れが田んぼに来るようになりました。そして一緒に生きものを探して、楽しみを共有しました。田んぼのファンはお米のファンになっていき、いのちの田んぼの応援者が増えていきました。
農薬や化学肥料を使いたくないという思いで作っている田んぼは、生きもの調査の楽しい会場になります。今日の研修から帰ったら、自分の田んぼの生きものマップを作ってみて下さい。
生きもの調査がもたらすもの・・・花まる農家たちにうれしい3つの変化が
2002年から、メダカのがっこうの農家たちを回り始め、ずっと生きもの調査を続けてきて、調査結果やデータそのものより、農家たちにうれしい変化がありました。
①それは、田んぼ仕事が楽しくなることです。
いままで稲づくりは、収穫量が最大の関心事で、病気や、害虫だけを気にしていたのが、メダカが増えてきたとか、草取りをしながらトンボの羽化に出会うと携帯で写真を撮ったり、カエルの卵もどんなカエルになるのか知りたくなったり、害虫から稲を守ってくれるカエルやクモにも、頼んだよという気持ちになったりします。生きものに視点が合うと、農薬だって、無農薬として売るために撒かないのではなく、撒く気がなくなるのです。
②次に後継ぎができることです。
これは農業が楽しくなるのに加えて、生きものが安全を保障したお米が、十分働きに見合う価格で売れるからでもあると思います。それにメダカのがっこうには、収量に関係なく、農家の作業に対してお金を払う田んぼ環境トラスト制度(田んぼ組)もあり、意識の高い消費者に支えられていることも、数はまだわずかですが、精神的に大きいと思います。
③次に、地域の学校の子どもたちに、生きもののことや、食育が教えられる田んぼの先生として、必要とされてきたことです。このことで私はうれしい発見をしました。
本当に命の大切さを教えられる人発見!
私は、命の大切さを教えなければ、というフレーズを聞くたびに、今のおとなに命の大切さを教えられる人がいるのだろうかと、疑問に思っていました。命より経済効率優先の世の中です。虫も菌も草も熊も、人間にとって都合の悪いものは、平気で殺す世の中です。お金のためだったら、企業も市民も命にとって危険だと分かっていることもやってしまう。本当にどこに命の大切さを教えられる人がいるのでしょう。
ところがです。ここにいました。長年無農薬で、生きものたちの生きる環境を守ってくれている農家の方たちです。数千円の除草剤を1回撒けば、熱い初夏の田んぼで腰をかがめながら草取りをしなくてすむことが分かっているのに、無農薬を貫くということは、たいへんなことです。撒きたくないという心の声に従って、食べる人の身になって考えて、子孫へ引き継ぐ自然環境を考えて、無農薬を貫いている農家たちが、もっともふさわしい命の先生ではないでしょうか。日焼けした真っ黒な顔で笑顔が優しくて、働きを惜しまない彼らは、謙虚で、でも一方ならぬ信念の持ち主で、効率優先の世の中で信じるところを貫ける自由人。日本の子どもたちに、本当に尊敬できる人はこういう人たちだと、知ってもらいたいのです。
命の田んぼを作っている方たちは、日本の人材であり宝なので、面倒くさがらずに世直しの先頭に立つ覚悟をして下さい。
おらが田んぼの生きもの語り部なるための研修会
本物の命の先生になるために、少し勉強する必要があります。やっていることがすばらしいのですから、ほんの少しの知識と、思いを言葉にする訓練を重ねることで、すばらしく花開きます。この研修会は、自然農法や有機栽培の農家の方たちの素晴らしさを、もうひとつ世間の人たちにわからせるための作戦です。まず生きものたちへのまなざしを持ち、田んぼの生きもの調査の手法を身につけることで、おらが田んぼの生きもの語り部になっていただこうという趣旨です。語り部の基本は、じぶんが面白いと思うことです。
既に自分の田んぼの生きものを把握しているすばらしい農家の方たちに語っていただきます。愛知県福津農園の松沢政満さんは、以前から皆さんにご紹介したいと思っていた方で、50種の果樹に40種の野菜を栽培するという山間地農業のおもしろさを味わい尽くしている方です。彼は、自分の山の向こう側がゴルフ場になろうとした時、反対運動をするために市会議員になって成功させ、目的が達成した時に議員を辞めるというかっこいい生き方をしています。また、自分の田んぼの水系を、山から海までたどり、いっぷくの絵巻物に仕上げました。見事です。
もう1人は、田の草フォーラムで一番人気の舘野廣幸さんです。冬水田んぼならぬ冬草田んぼで、1年中青々とした田んぼをつくっている方です。生きものの種類の多さは草の種類の多さと深く関係しているので、どんな生きものの1年を語ってくださるのか楽しみです。
もう1人は、元々農家ではなく、生きもの大好きで、高知で農業を始めたという谷川徹さんです。
夕食後には、みんなで大きな輪になり、座談会をします。2日目は、参加者自身が自分の田んぼの生きもの語り部になれるように生きものの見分け方を覚え、水口農場で生きもの調査の実習を企画しました。
農家と消費者という関係ではなく、地球環境を守る同志として繋がる
生きもの調査を専門家に任せてはいては、世の中は変わりません。一番いい方法は、田んぼの持ち主自身が市民や子どもたちと一緒に生きもの調査をすることで、地球環境を守る同志としてつながることです。この地球の視点に立った横の関係が日本を変えるのです。
同じ生きもの調査でも動機が意外と大切です。自分のお米が売りたいがための思惑や、安全かどうか調べてやろうという陰険な考えが元にあると、多分農家も参加者も楽しくないし、人が集まらなくなっていくと思います。
自分の信ずるところを行なう自由は、食料自給率にかかっている
今の世の中で、本当に命の大切さを教えられるのは、無農薬で農業を続けてきた農家だけだと思うのですが、どうして経済効率最優先の世の中で、彼らが命の視点を持ち続けられたのか、それは彼らの食糧自給率が高い真の自由人だからだと思うのです。企業に勤め、お給料だけが頼りの都市部の市民には難しい話です。そこで、今年からメダカのがっこうは、都市部の方たちにも、自給率を意識していただくため、仮想鎖国計画、自給自足ゲームを始めました。
自分の信ずるところを行う自由は、ひとえに個人の食糧自給率にかかっていると思います。素晴らしい農家と地球環境を守る同士として繋がる以上は、一人ひとりが食糧自給率を上げていくことが大切です。具体的には、市民も農家と提携してお米を確保したり、他のものも消費だけに徹することなく、作れるものは出来るだけつくるよう提案していきます。
すべての命の田んぼが市民とつながり、この田んぼのお米が飛ぶように売れれば、日本中の田んぼが生きものワンダーランドになる日も近いことでしょう。