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中村陽子のコラム

2008年7月26日

生きものいっぱいの田んぼ体験賛歌

 田んぼは日本人にとって、宝もの。母の胎内にいるような自然の懐でありふるさと。そして地球の内臓でもあります。メダカのがっこうのお米を作っている生きものいっぱいの田んぼでは、鳥もトンボもカエルもクモも、イトミミズもミジンコもユスリカも、田んぼの水を赤くする光合成細菌も、田んぼの草も、そして人間も、みんなが命を謳歌しています。この田んぼに入ると大人も子どもも元気になります。

 機関紙の表紙にも使われた右の写真、稲につかまってトンボが羽化しているところですが、これも田の草取りの最中に見つけたメダカのがっこうのメンバーが、手袋をはずし首からかけているカメラでそっと撮っもたもの。うれしくて腰の痛みも一瞬忘れ、生きものと一緒に稲を作っている喜びに浸っています。
 田んぼの畦を歩いていると、カエルたちが逃げ出して田んぼに飛び込むのですが、トウキョウダルマガエルだけはすぐ近くにやってきて、コチラを見ています。人間を見学しているようにも見えます。随分人懐こいカエルだな、と思っていたら、目の前で、アカガエルの赤ちゃんをパクッと食べました。どうやら人間に驚いて逃げ出す子カエルたちを狙っているようです。一瞬ドキッとし、食物連鎖の現場を垣間見たことに動揺します。人なつこいのではなく捕食のための作戦だったのですね。なんてのんきな解釈をしていたのか。
どろんこ怪獣
 田植えに来ると、子供たちはすぐ泥んこになります。はじめはお母さんの許可を求める子もいますが、すぐにすべてを忘れてしまい没頭します。一旦転ぶと、這い這いを始める子もいます。両生類だった時代を思い出しているのでしょうか。カエルやザリガニを捕まえるのに夢中な子もいます。狩猟民族の血が騒ぐのでしょうか。うらやましいお父さんもいそうですが、おとなたちはぐっと我慢して田植えに頑張っているので、子供たちは邪魔されず最高の時間です。日本の子どもたちを、み〜んなどろんこ怪獣にしてあげたい。
まよったら田んぼ 
 今までの生き方をやめて、模索中の方にも、この田んぼはいいようです。最近大田原の水口農場の草取りツアーに参加してくださった方が「まよったら田んぼ」というタイトルでブログを書いてくれました。イトミミズやカエルがいっぱいいる田んぼで草取りをしていたら、草一本生えていない整然とした隣の田んぼが、今まで勤めていた学校のような気がしたとか、広大な面積を無農薬でやっている水口さんが、その苦労や農協などとの軋轢を感じさせないで、食べる人のためにプロに徹しているにこやかな姿に感動しているところなど、鍛えられた感性を味わって読みました。また、昨年杉並区役所をやめて茂木で稲作りを始めた井村さんが、山間の棚田で作業をしながら、「ここにいると生きものたちが姿を見せてくれるんですよ。人間がこの場所をお借りしているような気になります」という言葉を発すると、「自然は謙虚な人をますます謙虚にさせる」と感動する、この呼応に心が洗われました。帰りの車で一緒に来た友人が「見ているようで見ていなかったな」と独り言を言ったそうです。命の田んぼを知ると、目に映る風景が変わるのです。とにかく素晴らしいブログです。メダカのがっこうのホームページ最近の活動報告ブログ、自分で書かないことにして本当によかった。
一度も後悔したことがない
 茂木で田んぼを始めたもてぎ分校井村さんの言葉です。生まれて数十年東京都杉並区以外の地に住んだことがなく、まして公務員で寄らば大樹の蔭、保障された生活から一変して心細かろうと心配していたら、日に日に逞しく、気の毒なほど酷かったアトピーもいつの間にか消えて、地元の人からも受け入れられて、漬物の作り方なんか教わってうまく作れるようになったり、なんだかすごいのです。「以前は自然を見ないようにしていたけれど、今は自然の一部になって生きようとしている」という言葉も聞きました。彼が農薬を使う普通の農業を始めていたら決してなかっただろうこの変化、命の田んぼだからこその出来事でしょう。やっぱり皆が元気なる田んぼです。
「命拾いしたっちゃ」
 「1人で泣きながらやらにゃあかんと思うとった」と喜んでくれたのが、佐渡の山本雅晴さん。佐渡田の草取りツアーで初めに行った田んぼの持ち主です。42人がいっせいに草取りをする光景は壮観でした。あれから半月、さぞかし草が生えていることでしょう。たった1回だけの手伝いしか出来ないのに、こんなに喜んでくれるなんて、来年も絶対たくさん誘ってこようって、思います。また、トキの田んぼを守る会の会長、斎藤真一郎さんも「消費者が来て一緒に草をとってくれるから、頑張ろうかという気持ちになる」といううれしいコメント。「腰が痛いけど後を見ると満足感がある」と草取りに励んでくれた参加者。この田んぼにトキが放たれて餌をついばむ姿を夢見る楽しい草取りツアーでした。
生きものいっぱいの田んぼ体験のすばらしさ、次はあなたが味わって下さいね。