恐るべき田んぼの生産力
先日、田の草フォーラムの取材に、山形の佐藤秀雄さんと、この自然栽培の方法を研究している山形大の粕渕辰昭先生に会ってきました。お二人とも『自然栽培』という木村秋則さん監修の雑誌のvol.8とvol.9で拝見し、十数年ぶりに連絡を取ったのです。
自然農法の基本は、無施肥です。土の肥料分やミネラルは無限にあるということが、根拠です。確かに土の成分表には必要な元素が十分あります。それを作物が使えるようにすることが栽培技術のポイントです。それには草や草の根と共生している菌の働きを活かすことが必要です。ですから除草剤や殺菌、殺虫の農薬はもってのほか、その上この土のバランスを崩す肥料分もたとえ有機のものでも禁物なのです。これは主に畑の話です。
ところが、田んぼの場合は田んぼ自身がどんどん肥料分(主に窒素)を生産することを発見し、稲作に生かすことに成功したのが、佐藤秀雄さんであり、それを理論化し栽培技術の構築をしたのが粕渕先生です。生産の主役は光合成細菌です。
そのメカニズムを説明しますと、まず、地球が生きていて、山から海までの大きな体を持っていると想像してください。畠山重篤さんの「山は海の恋人」という世界を思い浮かべてもらってもいいです。畠山さんはカキの養殖をしている方ですが、カキが育つ海の栄養は森が育むエキス(主にフルボ酸)なので、山に木を植える活動を始めた方です。
山と海の間に日本には里山があり、田んぼがあります。この田んぼは浅い水たまりです。太陽が注ぐと温度が上がります。ここで光合成細菌が繁殖して働き、どんどん窒素を作ります。人間の窒素工場と違うところは、人間の場合は大きな装置を作り空気中の窒素を取り出すのですが、光合成細菌の場合は、太陽光と水だけです。人間の場合は何を作っても、地球上のものを使って形を変えているだけですが、太陽光は地球の外からのエネルギーなので、地球上の富が増えることになります。
この光合成の仕組みは実は中学校で習いました。藻類、地衣類、草、樹木はすべて光合成の技を持っているので生産者、動物は消費者、菌類は分解者と知りました。学校の帰りに、緑が輝いて見え、小さな葉っぱの中で行われている仕事に尊崇の念さえ持ちました。
今でもその時の感動は忘れられません。地球上で初めて光合成を発明したのが、藍藻というカビの仲間で、地球の酸素とオゾン層を生産し、生物が地上に上陸できる環境が用意してくれたのです。
さて話を田んぼに戻します。田んぼの浅い水たまりは地球上でもっとも窒素の生産量が高いところです。光合成細菌といってもピンとこない方も多いと思うのですが、田んぼに限らず干潟のような水たまりで、ピンク色に濁っている水を見たことはありませんか? あれが光合成細菌の集団です。そこで自然栽培の技術の中心は、いかに光合成細菌にたくさん働いていただき、その栄養を稲の根に届けるか、ということになります。
それには草などで覆われていない光合成細菌の働ける水面を確保すること、それを攪拌して稲の根に届けることという2つに集約されます。ということで、田の草フォーラム始まって以来、草をとるために田んぼに入るのではなく、水面を確保し栄養あるスープを稲の根に届けるつもりで、田んぼの中を少し深くかき回しに入るという技術を提案することになります。
粕渕先生は、今年実験農場で、草もトンボもカエルもたくさん養ったうえに、お米を12俵/反も収穫したそうです。自然栽培といえば、5俵/反が普通なのです。ところが収穫した米は窒素分が少なく、非常に味がいいのです。これは特異なことなのです。普通の農法で12俵も収穫すると、お米の窒素分は6~7になり、味が落ちるのです。
これ以上の説明はできませんが、田の草フォーラムで粕渕先生に研修していただくつもりなので、興味のある方は直接聞きに来てください。そのほかにも、資料集を作成中ですが非常に優れた農家の方たちの発表があります。田の草フォーラムで提案する技術が多様化されてきたこと、本当にうれしく思っています。
田んぼの生産力の凄さを少し感じていただけましたか? お金の世界は増えているように見えても、移動しているだけです。得した人がいれば、損する人もいます。しかし田んぼは地球の外からの光エネルギーを使って本当に栄養を生産しています。一粒万倍の言葉のごとく、本当に増えるのです。その栄養で、草も虫もたくさん養ったうえに、稲もたくさん育てます。そのお米は食べた人を元気にします。
国富論の要は田んぼです。田んぼがなくなることは国が貧しくなることです。お米に使うお金を惜しんでいたら日本の自然栽培の田んぼは守れません。メダカのがっこうの農家の田んぼで穫れたお米を毎日食べてください。
田の草フォーラムの申し込みとお米の申し込みはこちらのHPからよろしくお願いします。