野草の力でいのちを取り戻す
脆弱な現代人
日本人は弱くなりました。都市に住むものはさらに虚弱で、生きるための栄養や酸素を補給する管でつながれて生きている瀕死の病人と同じです。電気、ガス、水道のライフラインは何かことがあっても自分では復旧できず、その上、薬やサプリメント、物を作り出すことに無縁な危ういマネーゲームに頼って生きている人が多すぎます。私もその一人です。だから子どもが学校に行かないくらいで強迫観念に襲われるのです。
もし森や田畑、川や海などの自然界から直接命を支える恵みをいただく知恵を持っていたら、つまらない恐怖心はなくなるでしょう。そして自然を直視し、生かされているものとして畏敬の念を持つでしょう。自然を知ることに頭はフル回転、上司に気を使って疲れるのとは正反対で、自らの問いの答えを自然から得るという学問の真髄に触れることでしょう。
これが私の理想なのですが、この生き方をすでに実行している方がいます。京都の綾部で自給自足の生活をしている若杉友子さんです。野草の力を教えてくれたのも彼女です。食の力はすごいです。昨年の冬、彼女は屋根の上まで雪に埋まった家の中で一歩も家を出ず2ヶ月間買い物もせず、豆炭ひとつで一冬越しました。若杉さんに会いに来た人たちも寒さで数時間もいることができず帰って行ったそうです。彼女の体は、長年の食で、冷えないようになっているらしいのです。
道は遥か遠しです。私も棚田の復活の拠点にするため、栃木県茂木町というところに家を借りたのですが、あまりの冬の寒さに震え上がり、床暖房を入れてしまいました。自分のひ弱さが情けないです。血液まで本物にならないと形だけ真似することなどできません。
実がならないF1種
どうしてこんなに弱くなってしまったのでしょう。前回までは、お米と塩は命の視点で選んできました。今回は、野草です。どうして野草なのかと言えば、それは今みんなが食べている野菜の99%以上が、命がないF1の作物だからです。F1(エフワン)と言うのは、一代限りの交配種で、収穫した作物の種を蒔いても、実がつかないのです。これは1960年代から広く栽培されるようになり、まず大豆やトウモロコシや小麦から始まりました。たとえば豆腐屋からもらってきた大豆の種を蒔いても、芽が出て葉も威勢良く出るのですが、ぼんやりした花がつき鞘ができてもぺちゃんこで豆ができないのです。遺伝子組み換えなどが問題になる遥か前、40年以上昔から、じわじわと種類が増え、現在はほとんどの野菜がF1種です。F1種は、毎年種と化学肥料と農薬を買うように設計されています。無農薬の農業には向かない種です。
何よりも問題なのは、命をつながない実や作物を私たちが食べているということです。
ニンジンが体にいいとか、ゴボウがいいとか言う話しではなく、玄米菜食がいいという食養生の段階でもなく、野菜の実態が命のないものになっているのです。これではいくら野菜を食べても元気になれません。どんないい料理を作っても心配の種はつきません。若杉さんが野草に注目したのも、これがきっかけでした。野草は自分で命をつないで繁栄しています。
野草の生命力をいただく
野草はすごい力をくれます。まず元気になる。目覚めが良くなる。動くことが好きになる。気持ちが明るくなり、毎日が楽しくなって人が集まってくる。草はすごい根を持っていて硬くて重いコンクリートをめくり上げて生えてくるのですから恐れ入ります。その精をいただけば、大概のことでは弱音ははかないし、すぐ死ぬこともないと思います。若杉さんは気の弱い人やいじめられる人に「野草を食べなさい。どんな時でも打たれ強くなるから。」とこっそり教えたり、「不況やリストラもまた自給自足のチャンスで、健康になるチャンス、低蛋白、低栄養で病気が治って元気になる場合が多いのだから、難あってありがたしよ」とどこまでも明るく強く頼りになる日本の母です。
命あるものを嗅ぎわける野生動物
自分の命をつなぐ食べ物を忘れてしまった人間とは違って、野生の生きものは命のないものを食べません。倉庫の中に在来種とF1の種の両方を入れておくと、ネズミたちはF1の種には手をつけず、在来の種を見事に食い尽くすそうです。また空腹にしたアオダイショウの前に無精卵と有精卵の卵を置くと、いきなり有精卵を飲み込むのに、無性卵には見向きもしないそうです。彼らの本能には驚かされます。
戦後私たちは、どんどん命のない食べ物ばかりになってしまいました。米を食べなくなり、塩が変わり、水が塩素入りの水道水になり、命のない食べ物ばかりになった結果、今までなかった病気がいくらでも増え、若者は生殖不能を起こし、女性には無月経や無排卵、不妊につながり、男性は精子の数が減り結婚できない状態になるのは、当然ではないでしょうか。
野生の生きものたちの子育ては本能とはいえ本当に感心します。巣作りをして産卵、じっと卵を抱き、雛がかえるとせっせと餌を運び、一人で飛べるようになるまで励まし面倒を看ます。ところが人間の子育てはどうかと言うと、子どもが産めない、育てられない、母性本能が欠けている女性が増えてしまいました。親から愛されなくなって子どもたちはどういう人間に育つのでしょう。
食い改めて元気になる
現代の問題はそう簡単ではありませんから、食を改めれば全部解決するというわけではないでしょう。みんなで助け合ったり、心の芯を立て直したり、いろいろやることはあるでしょうが、食を本当に改めると、自然再生につながる農業のあり方から、みんなが生きていける社会のシステムまで、かなりの影響力があります。食は捨てたものではありません。無月経や不妊で悩んでいた女性たちも、若杉さんの料理教室で、日本人の先人が残してくれた在来の食物に目覚めると、血が変わり体が変わり、人間性まで変わって、生理が始まると次々と面白いように結婚したり、子どもに恵まれているそうです。
それから、かなりの重病からも立ち直れます。実は若杉さんのご主人は2005年の2月に肺の小細胞ガン第3期の末期だと診断され、さらにガンセンターで再診してもらったところ今度は4期で余命2ヶ月だと宣告されたのです。そのとき若杉さんは腹を決め、「あんたもう2ヶ月の命やったら、一度私に命を預けてみたらどうや。これで治っている人もいるんやし、良いと言っている人もいるんだから、あんた捨てたもんじゃないで」って言ってみたところ、今まで若杉さんのやっていることが大嫌いだったご主人がすかさず「お前のやり方でやってみたい。お前に任せる」と言ってくれたそうです。そこで毎日、梅干の黒焼きをスプーンに1杯、一日3回、黒焼き玄米を煎じたお茶を1リットル、玄米を嫌うので、3分づきのお米、麺類やパンを避けてご飯を食べるように心がけてもらったところ、ガンが小さくなっていき医者が不思議がるほど早く治ってしまったのです。すっかり回復したご主人は、元気になった今でも玄米の黒焼きスープと梅干の黒焼きを手放さず、病弱の友だちに起死回生の神薬だと教えて回っているそうです。
医者要らずの自然療法
若杉さんの膨大な知恵の中から、私が覚えているものだけ、少しおすそお分けしましょう。まずヨモギはほぼ万能です。悪い虫に刺されても、ヨモギを手でもんで汁をつければ、後が残らずきれいに治ります。深い切り傷もヨモギを唾でぱっぱっともんでしっかり傷口に当て、手ぬぐいで巻いておけば治ります。これには日ごろお米を食べていることが大切です。お米を食べていると細胞が緻密になり繋がり易いのです。またヨモギや生姜の足湯は足から毒素を抜く働きがあります。痛風で足に肉食の毒がたまっている人は生姜を摩り下ろし、40度位の湯に入れて塩を一握り入れ30分くらい足湯をすると足の裏からどんどん毒が抜けていきます。またヨモギをカラカラに干しておいて、それを煮出し塩を一握り入れて足湯をしてもスーッと抜けていきます。風邪を引いたときも良く効きます。肝臓が疲れているときもヨモギを刻みすり鉢ですって布に包んで背中からシップをすると楽になります。シップの後には、生姜油といって、生姜の絞り汁と胡麻油を手で練ったものを塗ります。この生姜油はブユに刺されたときにも良く効きます。私はまだ経験がありませんが、ミミズはマムシに噛まれたときに使うそうです。またミミズを干したものは、お酒に酔うと商売にならない・#124;者さんたちが酔いを醒ますために舐めたり、熱が高いとき煎じて飲ませると熱が引くそうです。またびっくりする話ですが、声が出ないときはナメクジを水で洗って飲むといいそうです。森下先生も子どものとき体が弱くて、メダカを生で飲まされたそうですから、医者にかかれない時代の自然療法なのでしょう。
野草の食べ方の知恵
つくし、ヨメナ、甘草、ギボウシ、タンポポ、イノコヅチ、ベニハナボロギク、ホシノシズク、タデ、マコモタケなどなど、季節の草を使うのですが、野草はあく抜きなど扱いを間違えると肝臓や腎臓をやられますから、気をつけてください。基本は、塩茹でして水にさらし、よく水気を絞ってしょう油洗いといって、しょう油1水1のしょう油水に10分くらいつけたものを良く絞ってから使います。使った後のしょう油水は捨てます。ヨモギなどあくの強いものは、くぬぎの灰を使います。また野草は少量食べればいいのです。
魚が好きな人は、魚の毒消しである生姜や、ミョウガ、ネギやオオバなどの薬味や大根をたくさん食べると健康が保てます。料理は、塩、しょう油、味噌を基本に調味料は本物を使い、砂糖は使いません。お茶は、黒焼き玄米茶、まこもほうじ茶、梅醤番茶、トウモロコシ、カキドオシなどの葉を乾燥させてものなど、体調により季節により使い分けます。
驚くことにこれらの知恵は、先人の教えを元に若杉さんが独自に工夫した部分がたくさんあります。本当に一つ一つ実験検証しながら形になって来たのです。私たちも基本を知り、自然と相談したり、自分の体に聴きながら、自分の頭で考えられる人になりたいものです。
命ある野菜を増やす
F1種が命をつながない野菜であることを知っている心ある人たちは、在来種の種を自家採取して守っています。そして種苗交換会で種を広げています。最近「江戸野菜」などと在来種が見直されてきましたが、みながもっと命ある在来種の野菜を食べたいと関心を持つと、世の中の流れを変えることができます。世の中の進歩に身を任せていると、どんどん人間が弱くなってしまい、あれもこれもなくては生きていけないと恐怖心の固まりになってしまいます。私もまだまだひ弱ですが、未来の子どもたちのため命の視点に立ち、正しい方向転換を静かに始めています。みなさん、ご一緒にがんばりましょう。