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中村陽子のコラム

2001年1月23日

メダカの学校

 この夏、自然耕(不耕起栽培)の田んぼでメダカの繁殖に成功したことを知り、20匹程もらいに行きました。この夏だけで一万匹以上のメダカを養子に出したそうです。メダカは今年、環境庁のレッドデータ-ブックの絶滅危惧種�に載りました。それを知った不耕起栽培普及会会長の岩澤信夫さんが、今まで田んぼに生き物たちの循環を作り、命をたくさん蘇らせ育んできた経験を生かして、メダカを復活させたのです。


 メダカを絶滅に追いやったのは、ここ40年余りの農業の近代化です。田んぼを大型機械に対応させた区画整理、分断された用水路、コンクリートで三面固め地下に収められた排水路などの基盤整理と、化学肥料、農薬の使用などです。メダカに限らず、田んぼの生き物は全て死に絶え、草一本虫一匹いなくなってしまいました。
 メダカを復活させた自然耕の田んぼは、単に昔に戻ったのではなく、近代化以前の田んぼより、見事な生命連鎖が出来ているのです。人間がまったく耕さない田んぼでは、昨年の切り株はそのままで、太く長く伸びた根によって根穴が縦横に走り、歩くとスポンジのようです。冬になっても、その株は根元が青くまだ生きていて、力いっぱいはがすと、冬眠中のタニシや、もっと掘ると冬眠中のドジョウを目にすることができ、まさに人間以外のものによって耕し尽くされているのです。  
毎年田んぼに水を張ったときから始まる生命連鎖のきっかけは土にすき込まないワラが水の中で分解するとき発生するサヤミドロという藻です。ここから植物性プランクトン、動物性プランクトン、トンボ、ホタル、タニシ、ドジョウ、と命がいっぱいになります。
 今の農法では、ワラを田んぼにすき込むために土の中で嫌気発酵し、メタンガスをはじめ有害なガスが大量に出るため、地球温暖化の一因に上げられているのですが、自然耕の田んぼでは、そのガスの量は1/13にとどまり、その上、サヤミドロが水と空気の浄化をしてくれるのです。また今の田んぼは有害なガスを抜くために水の入れ換えを数回し、その都度、化学肥料や農薬の溶けた水が川や湖を汚染してきましたが、自然耕の田んぼでは一度入れた水を換える必要がありません。すべてがメダカたちに好都合なのです。この稲は野生化しているので冷害でも不作にならず、大量にわくサヤミドロが自然堆肥になるので多収穫で、食べれば体に良くて美味しいのです。
 佐渡島で行われている朱鷺の保護活動は今まで朱鷺が生きていけない環境の方を変えようとせず、ただ保護だけしていて本当に無意味だと思っていましたが、そこの村長さんが、自然耕の田んぼを始めて、ドジョウやタニシなどの小さな命たちを生命循環で蘇らせ、朱鷺を野生化させる計画を立てていることを知り、本当に良かったと思いました。
 メダカを養子に出した岩澤さんは、今度は自然耕の田んぼの生命循環の中で生きるメダカを子供たちや、まったく生命のいない田んぼのお米を何の疑問も持たずに食べている私たちに見せ、田んぼの命と人間の命がつながっていることを知らせるために、都会でメダカの学校を開く計画をしています。命をかけて自然の摂理を教えてくれるメダカが先生です。ひとたび人間が本当に自然の循環を理解すれば、山や川や田んぼでたくさんの種(しゅ)を復活させることができるのですね。朱鷺やメダカから学びましょう。
P.S. ほとんどの人がリストラされた幕末、根こそぎ失った戦争、そんな時、人々を支えてくれたのは、日本の山と川がくれたおいしい空気と水、先祖が守ってくれた田畑、何とかみんなを食べさせてくれたおっかさん。それ故、私は今まで通り太陽エネルギーから始まる地球の命の循環を根本に据えつつ、地球の自然と日本の田畑を健全に守ることができる林業、農業の復興と、誰の心にもある命を育む母性の復活に、取り組もうと思います。