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中村陽子のコラム

2005年12月18日

田の草を卒業するということ

 お米がおいしくて、地球の自然環境再生に大きな効力を持つ、生きものいっぱいの田んぼ。「何でこんなに良い方法が広がらないのですか?」という質問をよく受けます。その答えは、田の草取りが大変だからなのです。
農村に行くと、草を取り続けて腰が90度に曲がっている年配のご婦人を見かけます。次の世代の農業者には、除草剤という救世主?が現れました。撒けば草は一網打尽です。耕さない・冬・水・田んぼは、無農薬です。優れた農法なので、確かに出る草は少ないのですが、まったく生えないわけではありません。それに転換したばかりの田んぼは、かなり草に苦労するのです。2度と昔に戻りたくない、「草取りはいや」、そう思うのもうなずけます。そこで、今回は田の草の理想と現実について、考えてみました。


●田の草があまり生えない田んぼは存在する
 不思議とあまり草が生えない田んぼがどこの農家にもあります。調べてみると、トロトロ層が出来ていて、イトミミズが多く、田んぼの楓ハに還元層(酸素がなくて嫌気性菌がすめる)が出来ています。こうなれば、ほとんど困るような草は生えません。このような田んぼはとても土が肥えていて、稲も良くできます。
しかしこれで喜んではいられません。どうしたら、このような状態に持っていけるのか、ということが分からなければ、他の田んぼに再現できないからです。トロトロ層は、イトミミズの腸内細菌(乳酸菌多し)や稲や草の根っこに住む菌たちが作り出しているようです。
●水管理が出来る田んぼ作りが成否の分かれ目
彼らが働きやすい田んぼとは、まず水の条件がいいこと、例えば、水が張りたいときに水が確保できること、そして水持ちがいいことなどです。これは稲作り以前の問題、田んぼごとに解決策が違います。横浸透の田んぼでは畦塗りをすれば水漏れは解決しますが、縦浸透の田んぼでは、丁寧な代掻きが必要です。また、水の確保などは、個人の努力では手に終えない場合も多々あります。
水がある程度管理できるようになれば、話は早いです。耕さないことで、生きものたちの住処である稲や草の根っこを残し、酸素を発生する藻類の基であるワラを楓ハに残して水を張り、彼らのえさとなる米ぬかや、バランスよく菌を活性化させるミネラルなどを入れれば、数年でいい田んぼになります。
●田の草卒業生に共通している認識
2004年2月、第1回田の草フォーラムをしました。何とか田の草に悩んでいる農家の役に立ちたいと思ったからです。以来、草に困らなくなった田の草卒業生たちにお会いして気がついたことがあります。
彼らに共通の認識、それは藻類、植物含めて、草が地球の命の歴史の元だという認識を持ち、草を敵視せず、それどころか最大限の敬意を払っているところです。数初ュ年前、藍藻という藻類が、光合成を発明しなかったら、地球には、酸素も私たちの先祖である好気性菌もオゾン層も、蕪yも植物も樹木も、石油も石炭も、いのちの多様性も、地球上のすべての資源、富、楽しみは生まれませんでした。その植物を敵に回して殺したら、人間は滅びのサイクルに入るしかないということが魂のレベルで分かっている人たちなのです。草は蕪yを作り土を肥沃にします。田んぼの土の出来具合も、生えている草で分かります。
田の草卒業生には、また新たな課題が出てきました。田んぼの楓ハの土が肥沃になると、稲の根が土中深く張らなくなり上根だけになって、稲が野生的にならないことです。これは第2回田の草フォーラム(2006年1月28.29日松本にて開催嵐閨jのテーマの一つです。
●田んぼは人を呼びたがっている
田の草卒業生の田んぼには、草が生えてないわけではありません。草に困っていないだけです。収穫量もほどほどに穫れています。さらに、田んぼに人がたくさん来てくれると稲が良くできるといいます。除草剤を使った田んぼでは、草も生えなくて生きものもいなくて人が寄らなくて稲もつまらないだろう、とまで言います。
話を元に戻しますと、耕さない・冬・水・田んぼが広がらない理由は、除草剤が使えず、田の草取りが大変だからです。佐渡でも現在20軒の熱き農家が取り組んでいますが、田の草卒業までには、大きな覚悟と時間が必要です。土が出来ていない田んぼには、田の草がいっぱい生えます。だから稲の初期成育時の一回だけ草取りが必要で、そのお手伝いをしませんか。訪問者が大好きな稲の株間を歩き、田の草に敬意を払いながら。2006年は田の草取りツアーを計画しています。皆さんの猫の手、頼りにしています。
みんなで田の草取りに行こう!